【取材記】1.長崎(後編) 良か人、良か酒を育む酒蔵 杵の川
今回は【取材記】1.長崎(前編) 良か人、良か酒を育む酒蔵 杵の川の後編です。
(株)杵の川の歴史と今後について話を伺った。
杵の川のはじまり
「1839年に丁子屋醸造からはじまり、1980年に4社が合併したんですが、黎明酒造は1908年創業で現在5代目になります」と語る瀬頭社長。
年表にすると下記の通り。
1839年【天保10年】丁子屋醸造創業(東彼杵町)
1908年【明治41年】黎明酒造創業(諫早市)
1980年【昭和55年】黎明酒造(株)と黎明酒造(株)が合併し、雲仙酒造(島原市)、呉竹酒造(鹿島市)の営業権を引継ぎ、社名を太陽酒造(株)へ変更。
2002年【平成14年】社名を(株)杵の川酒造へ変更。
丁子屋醸造の創業から初代としてカウントすると瀬頭社長は20代目蔵元にとのことですが、現在は4社のうち黎明酒造(瀬頭家)の血縁のみでの経営になるので5代目を名乗っているとのこと。
黎明酒造の初代蔵元・瀬頭弥八が「黎明」の名付け親。“有明海に紅く昇る朝日“から命名された。三つの海に囲まれた穀倉地帯、多良山系の軟水に恵まれたこの地で「黎明」は諫早産山田錦100%使用の銘柄として醸造されている。
その後、現在の社名「杵の川(株)」丁子屋の創業地名から付けられたとのこと。紆余曲折を経て「良か人、良か酒を育む酒蔵というミッションから外れていなければ良いんです」と清々しく語る瀬頭社長。その理念が社内プレゼンがしやすい社風にも繋がっているようだ。
2代目蔵元のイノベーション
黎明の名前は銘柄だけではなく「レイメイ式瓶詰め機」としても業界では知られていたとのこと。動力なしで瓶詰めができる優れものだったそう。2代目蔵元は前述の瓶詰め機の発明と、四季醸造を稼働させたイノベーターであった。
「今は“沖縄県の黎明“の方を知っている方が多いですね」と瀬頭社長。
黎明は沖縄でも造られているのです。支社があるのではなく、技術提供からのご縁とのこと。当時2代目蔵元・瀬頭大治による四季醸造は沖縄県うるま市にある「泰石酒造」からのオファーを受け、沖縄唯一の日本酒醸造を誕生させることとなり、それ以降黎明は杵の川「黎明」と泰石酒造の2種類が存在する。“本家黎明“と“沖縄黎明“。沖縄に行かれる方はぜひとも飲み比べをしていただきたい。
ちなみに「“沖縄黎明“のラベルにはハイビスカスが描かれているので、本家との見分けは付きます」などとお二人は楽しそうに語っていたました。
加えて昨年の夏、江口さんは泰石酒造を訪ね、その“沖縄黎明“立ち上げ当時の資料を見せて頂いたとのこと。
「(杵の川の)事務所にあった資料は諫早大水害で流されてしまって無いので、当時の写真や資料を見せて頂けてよかったです」と。
諫早大水害
予期せず失われた史実を沖縄で見ることができた江口さん。
「本名川が倒木で塞がれて氾濫したんですよ」「近所の福田屋さん(前編に登場しているうなぎ専門店)は器や秘伝のタレが流されたので、その味を思い出しながらの再建だったそうで」と語るお二人。
諫早にある約200年企業のほとんどが同じ状況下にあったとのこと。
約60年前、昭和32年7月25日から26日にかけて諫早地方を襲った豪雨がもたらした本明川などの氾濫。それが死傷者多数を出した「諫早大水害」だった。
長崎県ではその後も「長崎大水害」で被災しており現在は河川の水位を下げるなど護岸工事を施しフォーラムを開催し防災に力を入れている。
諫早観光地のハブ機能~長崎県央の諫早市~
取材終了後、瀬頭社長の車に乗せて頂いて諫早駅へ戻ることに。大変助かり感謝。往路はこの新しく眩しいロータリーでバスを待っており、この諫早石でできた眼鏡橋のレプリカを眺めているうちに、長崎県に来た!という実感がわいた次第。
車中で語って頂いたのは「杵の川」は今年の夏頃から改装を行う話。市の助成金も手伝って、新たに観光のハブ機能を持つ酒蔵へと生まれ変わるとのこと。敷地内で移築を行ったりと大ががりな改装が見込まれるが、「諫早の観光のハブ機能を持たせたい」と語る瀬頭社長。具体的には「杵の川」への来訪目的に、お酒以外の諫早の名産品、観光案内、宿泊を加えられるようになるような場にしたいとのこと。お酒と観光がセットで楽しめるなら旅行者としては時短になるのでうれしい。そのハブ機能として一足先に再開発されたのは最寄りの諫早駅。2022年長崎ルート開通に合わせた“九州新幹線効果を高めるための再開発“により2018年から徐々に工事が進められている。駅ビル「Iisa(イーサ)」は電車とバスのターミナル機能と飲食店などの商業施設で形作られた複合ビルとなる。
開発が進む諫早市は今後益々注目を集めそうだ。
次回、肥前に続く。
Information
株式会社 杵の川
〒854-0056 諫早市土師野尾町17番地4
(バス停 土師野尾ダム入口下車 約徒歩3分)
杵の川オンラインショップ
[「純米吟醸はじまりはじまり」が購入できるお店]
鶴川酒店(諫早市)
富屋酒店(大村市)
酒のひらどごや(長崎市)
[東京で買える店]
日本橋 長崎館|JR東京駅 八重洲北口(取り扱い銘柄はお問い合わせください)
[諫早で飲める店]
福田屋|アエル商店街内
福田屋は文久3年(1863)創業のうなぎ専門店。ほか諫早市内のうなぎ屋さんがオススメ。
杵の川 蔵元直営きき酒処|諫早駅東口
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