【取材記】5.群馬・川場村 土田酒造
日本酒学園!取材企画第5弾です。
今回は生徒会長のアポイントで共に群馬県川場村の酒蔵を訪ねたた生徒副会長Tの取材記です。群馬県利根郡川場村。山間から心地よい風が吹いてくる道の駅「田園プラザかわば」が人気の田園風景の中にあるエリア。
この地で醸造蔵を構える土田酒造と永井酒造の取材ツアーです。
土田酒造~全量生酛造りにこだわる蔵~
まずは創業116年目の土田酒造にお邪魔した。
新潟から沼田市(当時沼田町)へ移住した初代蔵元・土田茂八の代から5代目蔵元・土田洋三の誉國光(ほまれこっこう)で評判を上げ、1992年に川場村へ移転。現在は6代目蔵元・土田祐士。彼は土田酒造を“全量生酛“に変えた蔵元。
田園プラザから車で10分ほど走ると蔵に到着。木々に埋もれるような形で建つホテルのような土田酒造。左手の古民家は150年前のもの。川場村で養蚕に使われていた建物を移築したそうだ。案内図を見ていると、出迎えに現れたのは土田酒造のはっぴを着た人。
土田酒造 常務取締役 松田康次郎さん。
早速ご案内いただくことになり、まずは古民家へ入り事務所で話を伺った。
菌や微生物の力を借りて楽しみながら造る酒
事務所を出て、仕込蔵へ案内して頂いた。
J-popが流れる作業場で白い長靴、不織布の帽子、ビニールの上着を着用。中には片付けや掃除中のスタッフ1名。軽く会釈し、扇風機に煽られて膨らむビニール手袋を眺めつつ、ここから蔵見学スタート。以降文中の「 」は松田さんの解説です。
[洗米、浸漬、蒸米]
原材料の精米されたお米を洗米、浸漬を行なったあと蒸米器へ。
土田酒造では可動式の小さなタンク数個に分けてボイラーで蒸すとのこと。出来上がったアツアツの蒸米は放冷機で冷まされ麹室へ。
[通路壁のアートとロゴについて]
書家が炭を酒で擦って墨汁にし、大胆に書き上げられた詩。
この蔵が建てられた30年ほど前に、柏木白光先生が書いてくださったとのこと。
「川場村は四季折々水もご飯も美味しい良いところですよーというオリジナルの歌を書いてくださったんです」とのこと。うなずける内容でデザインから喜びも伝ってくる。
土田酒造では武尊山(ほたかやま)の伏流水を無濾過、無調整で使用している。
古民家の前でその水が飲めるので、いただいたところ、まろやかな舌触りがうまい水。
タペストリーに白ぬきで描かれた土田酒造のロゴマーク。「土」の象形文字をベースにデザインされたもの。
[麹室]
甘くない独特の香がする麹室。ここではさらに蒸米を冷ましてから麹菌をまぶし、切り返し、米麹を造る。
「秋田今野商店の「焼酎用黄麹」という野生的な麹菌を使って、100kgの米に対して麹菌35gとたっぷりかけます」
90%精米の蒸米を使って、通常60時間かかる工程を33時間で総ハゼ麹米に仕上げる。そのために通常の10倍ほど麹菌をふりかけているわけだ。作業効率を考え、出来上がった米麹は冷凍保管して都度使用しているとのこと。
「焼酎用黄麹を使うと“黒粕“になるんです。通常は黒いと売れないけど、土田の売店では評判がいいんです」
黒い、とは一般的な酒粕の白さと比較して黒いという意味。玄米の茶色を薄めたような土色の酒粕のこと。精米歩合が主に90%なので醪もその色に仕上がる。
その上、塩化ナトリウム、グルコース、乳酸の添加をしない、炭濾過をしない酒の副産物にも興味がわく人は多いだろう。(後ほど売店で買うと決めた瞬間だった)
[酒母室]
分析室を経て、酒母室へ。酸欠になるからドアは閉めずにお邪魔する。
小さいタンクにはそれぞれ「菌が降りてくるのを待っているんですよ」
大抵の酒造り(速醸酛など)では乳酸菌は添加するものだが、生酛系酒母は蔵に住み着いた乳酸菌たちがタンクに降りて来て酵母の手助けをする。
注目したのは“常務専用タンク“。何やら赤飯のような色をしている。理由は赤米。面白いお酒を造りたいという彼の発案で、有機栽培の古代赤米を使用しているからとのこと。ワクワク感の中で“楽しんで造る“酒。蔵見学に来たから感じられるこのムード。すっかり心をつかまれて、ただ完成が待ち遠しいとだけ思っていた。
[仕込み室]
三段仕込みをし、醪を完成させる部屋。木桶の仕込みタンクが1つ。
「小豆島の製造者に5年くらい待つと言われ、待てないので杉の製材だけお願いして、仁井田本家さんで作ってもらったんですよ。そしたらものすごいいいお酒ができたんです」と常務。
01とナンバリングしており、今後No.03まで増やす予定とのこと。その後、やぶたの0.45μフィルター濾過で搾り、貯蔵タンクで寝かせてから瓶詰め、出荷となる。
以上が江戸時代の酒造りで醸造する土田酒造の酒造り。
詳細はぜひご自身の目でお確かめください。
[売店]
蔵見学を終えて別棟の売店へ。こちらではボトル販売はもちろん、例の“黒粕“や日本酒を使った化粧品などが陳列されている。ほとんどの商品がオンラインショップでも購入できる(黒粕と石鹸を購入。どちらもリピートしたい商品です)が、1番の楽しみは試飲。に注いでいただきつつ、説明を伺いつつ試飲を開始。
シン・ツチダ
新たな土田酒造の代表銘柄。生産量が1番多い人気のお酒。封を開け三月、半年してから飲むとまた美味しいとのこと。無添加のため劣化がなく、うま味が上がっていくとのこと。
Tの感想:丸みのある味わいで旨味、酸味、甘味などバランスが良い。
尾瀬の木道
水芭蕉が見れる群馬のトレッキングスポット「国立公園 尾瀬の木道」の部材交換費用を売上の一部でサポート士ている。
Tの感想:甘口で芳醇。燗酒も良さそう。
Tsuchida 99
9月9日発売のお酒(酵母無添加)
普通のお酒は麹歩合2割程度だが麹米99%、掛け米1%という濃厚なスペック。チーズにピッタリ、ワイン感覚でお肉に合わせられますとのこと。
Tの感想:味も乳酸を強く感じるフルボディタイプ。
Tsuchida K
貴醸酒(仕込み3段目に酒を水の代わりに加える)貴醸酒組合に入っていないと記載できない。
Tの感想:色が薄いのにカラメルの味が強い。控えめな香で食中酒に良さそう。
Tsuchida F
唯一の辛口タイプ。 Fはファンタスティックの意味で旨味のある辛口酒とのこと。
Tの感想:強めの発酵の香、口の中で派手に広がる旨辛。
ぜひ蔵見学の後で売店に寄る時間も確保して土田酒造を訪ねていただきたい。
薪の火でもてなす宿泊できるレストランVENTINOVE
最後に昨年12月21日に開店したレストランがあるとのことで、案内していただいた。
避暑地で見た別荘のような佇まいに圧倒されつつ、外観を眺めてから、裏手で薪を片付けている人に声をかけ「東京で人気店を営んでいたイタリアで修行した料理人」と松田さんのご紹介を受けて店内を見せていただいた。群馬県出身の彼は、2020年から川場村に戻ったとのこと。
VENTINOVEオーナーシェフ、竹内悠介さん。
薪が薫るダイニング。まだ新しいのに懐かしく、ホッとする。調理も薪を焚べた火で行うのだという。地元の牛肉などの食材を使ったコース料理が味わえる。お酒はもちろん土田酒造、イタリアンワインも揃っている。
窓から見えるのは山と空だけ。しかも1日1組限定なので料理と会話に集中できるということだろう。そのあとはB&Bという気楽なスタイルで宿泊も可能。特別な1日を過ごしたい時にオススメしたい。
詳細はお店のホームページでご確認ください。
次回、同じく群馬県川場村の酒蔵、永井酒造へ続く。
Information
土田酒造株式会社
〒378-0102 群馬県利根郡 川場村川場湯原2691
沼田ICから車で約10分
駐車場あり。レストラン利用の方も使用可。
蔵見学などのお問い合わせはホームページへ。
土田酒造HP
土田酒造公式オンラインショップ