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2023-08-17

【取材記】6.群馬・川場村 永井酒造

日本酒学園!取材企画第6弾です。前回の土田酒造に引き続き、生徒会長のアポイントで共に群馬・沼田の酒蔵を訪ねた生徒副会長Tの取材記です。

前回の記事はこちらをご覧ください。
【取材記】5.群馬・川場村 土田酒造

群馬県沼田市川場村。
道の駅「川場田園プラザ」が人気の山間の田園風景の中にあるエリア。今回は永井酒造の蔵見学、ではなく永井社長のインタビュー。近隣の素敵な観光スポットも少々ご紹介です。

永井酒造 外観

訪ねたのは4月末頃。旧酒蔵を改装して建てられた永井酒造の直売店『古新館』。
仕込み水が流れ出る側に水芭蕉の大きな葉が揺れていた。休業日なので人影もなく駐車スペースから付近の田んぼがよく見えた。
古新館の入口の印象よりも天井が高く広い店内。まず経営企画室室長・金井英樹さんがでそこへ現れたのが代表取締役6代目蔵元・永井則吉さん。

お二人に歓迎していただきつつ、お酒の飲み比べセットや軽食などが食べられる直売店をみていると中央の広いスペースにいたのはLOVOT(ラボット)。「喋らないけれど、目と仕草でコミュニケーションが取れますよ」と永井さん。彼らはインフルエンサーとして活躍中のペットロボットだ。名前はそれぞれ『こうじくん』と『アクアちゃん』。寝起きなので早速ご飯(充電中)そして店内の階段を上がり2階のテーブル席で話を伺うことに。以降「」内は永井社長です。

6代目就任から10年目

初代・永井庄治が酒造りを始めるため、長野から酒造りに合う水を探す旅に出て「川場村の水に惚れ込んだんです。柔らかい、うまみがある、最後に苦味があり…」その創業から137年目の今年、則吉さん6代目蔵元は就任10年目となる。

就任当時からの功績を振り返ると以下の通り。

2008年に瓶内二次発酵性清酒『MIZUBASHO PURE』の発表で様々な製造特許を取得し、2016年一般社団法人awa酒協会を設立し理事に就任。

乾杯からデザートまで料理に合わせた”米の酒”を提供する『NAGAI STYLE 』を2014年に確立し、現在2020年にスタートした『MIZUBASHO Artist Series』では尾瀬の水芭蕉プロジェクトの一環で売り上げの5%を寄付。この地域貢献に取り組むシリーズは片岡鶴太郎氏にアートワークを依頼しSDGs(環境問題と女性のエンパワーメント)をテーマに水芭蕉を描いたとのこと。

古酒ではない『Vintage Sake 』という日本酒の概念を発表し、10年以上寝かせた純米大吟醸を数量限定で販売。

ほか、2020年は一般社団法人 刻(とき)SAKE協会はビンテージ酒の協会の設立メンバー

と常に日本酒業界に一石を投じてきた永井社長。ていねいに実績を積み上げたからこその結果だろう。“原因をひとつずつ潰して行く“丁寧なものづくりがモットーとのこと。

「完全デフレの日本酒業界をもっと上に持っていかないと。人生で注力するテーマは“日本酒文化の価値を上げること“なので」と常に業界全体のことを考えている。

建築業界から日本酒業界へ

そもそも永井社長は蔵人になる前、幼少期には「次男坊なので、山の木一本あげないと言われましたが、その代わり好きなことをやって良いと言われました」と酒蔵に関わることに親からNGが出されていた。そして永井社長が選んだのは建築業界。当時高校時代3年2学期。建築に興味を持ったので東海大学工学部建築学科へ進むことに。隈研吾氏などの厳しいけれど楽しい授業を受け、課題に取り組む日々。そして在籍中の留学を検討していた頃、永井酒造の蔵のリニューアルが決まった。建築家として設計チームに入った永井社長。

「今まで手伝うことがあっても、何が酒づくりに必要か知ることはなかったんですが、設計チームに入ったことで知ることになったんです」

酒蔵を造るためには酒造りを知る必要がある。そのため改装に携わって行くと次第に酒造りに対する興味は大きくなり、最終的には親を説得し、1995年に製造スタッフとして入社。幼少期から顔見知りのベテラン社員たちのもとで働きはじめた。丁稚状態の立場で現場の掃除からスタートしたが、元来掃除が好きだった永井社長。そんな風に誰よりも掃除に力を入れる永井さんの影響が社員に染み渡り日に日にキレイになって行く酒蔵。白瀧酒造(上善如水)に教えを承けて清掃のデジタル化に取り組んだ。「この若さで、若さだからこそ熱意を示し協力を仰いで吸収することができたのだと思います」永井社長22、23歳の頃である。

「その間夜は勉強し、昼間は現場で掃除するという日々。その経験が今のベースになっています」その勉強を通して通信教育で酒造の一級試験を取得したとのこと。

そして酒造りの方で取り組んだのは「基本的な酒造りができないといけないのでそこからスタートし学びながら酒造りをマスターしていきました。その後は『何で全国新酒鑑評会で賞とれないの?』と」。ここから全国新酒鑑評会で賞を取るための策を探り始め、おり引きのタイミング、温度などひとつひとつ原因を見つけ出していった。そして入社して8年目に金賞を獲得、結果3連続金賞獲得という快挙。

「そのあとは好きなことをやってみろと言われたんですが“熟成“はまだやらせてもらえず」

“熟成酒愛”が生んだNAGAI STYLE

そんな状況下でも給料を注ぎ込みながら少しずつ熟成酒を手がけ始めた永井社長。

「父が亡くなったとき、政治家だったこともあり補う保険もなかったんです」

5代目蔵元突然の死去。その後は財務と人事を支えていたお母様が中心となりどうにか切り盛りしつつ3年が経った頃、常務だった兄が社長就任、26歳だった永井現社長は現場と財務を支えていたが、倒産の危機真っ只中だったという。

「母親が亡くなった時に取引先に頭を下げてまわり、支払いを待ってもらったんです。もし貸し剥がしにあっていたら会社はなかったかもしれない」

様々な困難の中過ごした20代後半だった。

「目的を持って頑張ればなんとかなるなと。社員もついてきてくれたので」

「そんな中でも熟成酒は研究していました。実験をくり返しながら理想の温度帯を10年かけて見つけました」

その後、熟成酒愛がきっかけとなりSUPERKLING SAKEの筆頭と言って良い『MIZUBASHO PURE』が完成する。

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「熟成酒を飲んで頂くために“スターターになるスパークリング酒が必要だ”ということで98年から作り初めて。最初は大変でしたが5年間で700通りも試して生産していた頃、スペインの『エルブリ』という予約の取れないレストランから連絡があって、やはり“輝くものを作らないとダメ”だと」それが2008年ターニングポイントとなった出来事とのこと。

『エルブリ(elBulli)』とは半年間のみ営業しておらず、8千席に対し200万件の予約が入ってしまう世界一予約の取れないレストラン。営業していない半年間、シェフのフェラン・ドリアはレシピ開発に費やしており、その間に来日し『MIZUBASHO PURE』に出合ったのが経緯。加えてその頃の東京国際映画祭でも『MIZUBASHO PURE』は採用されていたとのこと。

そして乾杯から、デザートまでを米の酒で料理に合わせて行くNAGAI STYLEが形作られて行き現在もそのスタイルは浸透しつつある。

(補足:『エルブリ(elBulli)』は多忙ゆえに閉店したが現在は、当時のレストランに隣接して建てられた料理の研究機関「エルブリ・ファウンデーション」として活動再開中)

そして10年が経ち…

「熟成酒の土台づくりに時間がかかったわけですが、機が熟し収穫の時期に入ったと感じてます」

常にチャレンジを続ける永井社長は上記のように種付けから収穫を常に繰り返しているとのこと。

しかし、なぜそこまで熟成にこだわるのか?

「“熟成“に目をつけたのは『グラン・メゾン』のワインに出会ったからです。それで“日本酒にもビンテージの価値を付けたい“と。そもそも純米大吟醸は作るのが大変なのに、安い。業界で横並びの価格を変えて行くためには帯戦略的にやっていかなければと」

「135周年の時にAge 15年は終わった(在庫なし)ので、今は新樽で研究醸造中です。だからまだほとんど販売できてないです。低温管理で樽から抽出したいエッセンスを狙ってそこに持っていきます」とのこと。長生きして完成を待ちたい酒好きは私だけではないだろう。

最近ではラグジュアリー層を捉えている日本酒企画セールス企業『SAKE HUNDRED』と組み165,000円(500ml)10年氷温熟成3年樽熟成をリリース。学びが多い企画だったとのこと。

このように日々熟成=日本酒業界の価値を上げること。という考えを持ち、着実にそれを育て実行していった永井社長。その後リッター単価は前蔵元の3倍程になり、したがって量(石高)も倍になった。

「今は3,000石くらい作ってますね。客単価は3倍くらいになりました」

テイスティングルーム&醸造研究所「SHINKA」

“日本酒の価値を上げる“という目標に取り組みつつ熟成酒の夢を叶え研鑽を積む中、次の新しいプロジェクトが進行していた。

「ナパ・バレーで出合ったテイスティングルームを参考にし、和モダンなテイスティングルームを作っています」奥様との出会いの地でもあるナパ・バレーは500以上ものワイナリーが集るアメリカのワイン生産地。AWA酒、刻(とき)SAKE、SDGsへの取り組みなどを顧客とじっくり語りあう場として稼働していくとのこと。取材時はまだ準備中だったが約2年かけてグランドオープンを間近に控え、現在メニュー開発やインテリアを設置中とのことだった。

そして8月にグランドオープンを迎えた。

詳しくは下記リンクのプレスリリースをご覧ください。

関連記事「永井酒造」の新たな挑戦 テイスティングルーム&醸造研究所「SHINKA」2023年8月1日のグランドオープンを記念して、熟成酒3種を同時発売

 

 

臨済宗 建長寺派 青龍山 吉祥寺

その後はせっかくなので、近隣の「吉祥寺」と「川場田園プラザ」へ。
吉祥寺は永井酒造から数分の距離だったので、お天気もよければぜひ立ち寄っていただきたい。受付で拝観料¥800を払い、境内へ続く緑の中の小道を進み、本堂へ。その手前や周辺はたくさんの草木が植えられており、立派な藤棚など。本堂の縁側からは池、崖の間を流れ落ちる滝などと緑のコントラストが気持ちいい。枯山水や水芭蕉の白い花もとても美しかった。

川場田園プラザ

吉祥寺から車で5分ほど走ると各種メディアでも取り上げられている道の駅「川場田園プラザ」に到着。遠くの山々を眺めながら芝生やベンチでゆったり過ごせる公園のようなエリア。この日は営業時間15:00までという店舗が多かったので慌てて散策。新鮮な野菜もほぼ売り切れていた時間帯だったが、ブランド米の「雪ほたか」を購入し、川場産のチーズを使ったピザをいただいた。地ビールも美味。川場のまろやかな水を使ったKAWABA BEER IPAは景色を眺めながら頂くのがまた最高でした。

川場田園プラザhttps://www.denenplaza.co.jp/

 

永井酒造でお土産にいただいた、群馬酵母と群馬新品種の酒米を使った純米吟醸「舞風」は自宅で味わいました。とてもきれいでほんのり旨味があり美味しかった。

ではまたの機会に。


Information

永井酒造株式会社

群馬県利根郡川場村門前713

沼田ICから車で約10分

「古新館」に駐車場あり

お問い合わせはホームページへ。

永井酒造HP https://nagai-sake.co.jp/

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